腹膜透析について
腹膜透析について
腹膜透析(Peritoneal Dialysis=PD)は、おなかに透析液を出し入れし、自分の『腹膜』を利用して体の余分な水分や老廃物を取り除く治療法です。
我が国では80歳以上の高齢透析患者数は年々増加傾向であり、2021年12月末時点で77871人、全透析患者の23.1%を占めています。
80歳以上では透析導入後1年以内に30.2%が死亡、平均余命は男性4.8年、女性5.6年と報告されています。
そのような中、日本では多くの高齢血液透析患者さんは週3回の通院負担、透析後の血圧低下、倦怠感、認知症の進行、通院困難になると社会的入院が必要になる方が大半であり、高齢化の進行により透析により元気に社会復帰するというより透析により生かされている、透析自体が延命治療となっている側面が強くなっています。
このような高齢透析患者の現状を解決するために当院では地域社会資源(訪問看護師やデイサービス、有料老人ホームなど)と連携した緩和的腹膜透析療法に積極的に取り組んでいます。
緩和的腹膜透析とは治療優先の透析ではなく、透析交換回数を限りなく減らし(1日1~2回交換以内)、患者本人はもとより介護する家族の身体的・精神的負担軽減を行うことで、自由で高い生活の質(QOL)の維持が期待できます。
また、当院では通院が困難となった時点で訪問診療も可能であり、最期まで在宅や施設で過ごすことで腹膜透析を継続しながら穏やかな終末期を過ごし、自然な死(老衰)が迎えられるようにサポートを行います。
透析患者の終末期ケアについて
近年、透析医療における終末期ケアの在り方が大きな課題として注目されています。2024年11月に発表された堀川惠子氏の医療ノンフィクション『透析を止めた日』は、この問題に新たな光を当てました。
本書は、著者の夫である元NHKプロデューサー・林新氏の10年以上にわたる血液透析、腎移植、再透析の経験、そして最期の日々を描いています。透析患者が「安らかな死」を迎えることの難しさ、緩和ケアを受けられない現状、そして医療制度の様々な課題が克明に記されています。
現在、日本では約35万人の患者さんが透析治療を受けていますが、残念ながら終末期における選択肢は限られています。特に、がん患者以外の患者さんが緩和ケアを受けにくい状況は、大きな課題となっています。
このような状況の中、当院では維持血液透析が困難になった患者さんに対して、緩和的腹膜透析への変更を積極的に検討しています。また、地域の医療機関や介護施設と連携しながら、患者さんとご家族が穏やかな時間を過ごせるようサポートしています。
透析医療における終末期ケアは、医療者だけでなく社会全体で考えていくべき重要なテーマです。当院は今後も、一人一人の患者さんの状況に寄り添いながら、より良い医療の提供に努めてまいります。
ご不明な点やご相談がございましたら、いつでも当院スタッフにお声がけください。
療法選択外来について
末期腎不全(eGFR15未満)で近い将来透析が必要と言われた方に対して医師・看護師・ソーシャルワーカー・(必要により訪問看護師・ケアマネジャー)など多職種で療法選択(腎臓移植・腹膜透析・血液透析・保存的腎臓療法:透析をしない選択)説明を行います。
―腎臓移植を希望される場合は、移植可能施設へ診療情報提供書を作成し、透析開始前に移植を行う先行的腎臓移植をお勧めします。
―腹膜透析に関しては手術前からバッグ交換の手技指導・訪問看護師と連携した自宅訪問・環境整備・導入後の継続した在宅支援(訪問看護師+当院在宅支援部)を行います。特に高齢者で入院による認知症の進行、筋力低下が危惧される場合は可能な限り入院期間の短縮(最短2泊3日)を行い、ご自宅での訪問看護師のサポートによる導入(アシストPD)を行います。
―血液透析を希望される場合は近隣の医療機関に診療情報提供書を作成し、内シャント造設をお願いし、適切な時期に透析の開始ができるようにサポートします。(維持血液透析は当院では対応しておりませんので近隣の医療機関へ転院して頂きます。)
―現在血液透析中の方で週3回の通院が負担に感じている、倦怠感に悩まされている等ある場合は腹膜透析の併用療法に移行することで解決する可能性もあります。
その場合血液透析(週1回)は現在通院中の医療機関で継続、腹膜透析は当院へ月1~2回の通院となります。
併用療法へ変更後に血液透析施設への通院が困難となった場合は腹膜透析単独療法へ切り替え、訪問診療での対応も可能です。
まずは現在の担当医と相談上、希望される場合は当院在宅支援部(093-863-1211)までご連絡ください。
明日からの在宅医療・PDケアに活かせる 実践型研修プログラムのご案内
https://kusumotonaika.net/?p=101786
https://kusumotonaika.net/?p=101787
「在宅PDを始めたいけれど、実際の管理に不安がある…」 「チーム医療って具体的にどう進めればいいの?」 「緊急時の対応が心配…」
こんな悩みをお持ちの医療者の皆様へ。 当院では10年以上の在宅PD管理の経験を活かし、現場で実践できる研修プログラムをご用意しました。
■ このプログラムの特徴 ・実際の診療現場で学べる ・少人数制でしっかりサポート ・経験豊富なスタッフが丁寧に指導 ・明日から使える実践的ノウハウ ・困ったときの相談体制も充実
■ こんなことが学べます ・在宅PDプログラムの立ち上げ方 ・多職種チームの作り方、動かし方 ・IoTを活用した多職種連携 ・緊急時の対応システム ・患者さん、家族との関わり方 ・ACPの実践方法
■ 特に力を入れている取り組み ・療法選択・高齢者向けの緩和的PD ・アシストPDの実践 ・保存的腎臓療法(CKM) ・IT/AIを活用した支援システム
■ 具体的な研修内容 ・実際の外来診療見学 ・訪問診療への同行 ・多職種カンファレンスへの参加 ・実践的なシミュレーション
対象は医師、看護師をはじめ、薬剤師、管理栄養士、MSW、PT、OT、臨床工学技士など、在宅医療に関わるすべての職種の方々。お一人での参加はもちろん、チームでの参加も大歓迎です。
「こんなことを相談したい」「これを学びたい」など、ご要望に応じて柔軟に対応させていただきます。
研修後も困ったときの相談対応など、継続的なサポートを提供しています。
地域の在宅医療を一緒に作っていきましょう。 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
研修コース一覧
半日コース(午前)|システム構築・導入支援
- 時間: 9:00-12:00
- 対象: システム構築検討中、PD導入検討中、多職種連携強化希望の施設
- 内容: 在宅医療システム解説、PDプログラムの実際、多職種連携の仕組み
- 費用: 医師 10,000円/名、看護師・その他職種 5,000円/名、企業 10,000円/名
半日コース(午後)|実践スキル習得
- 時間: 13:30-17:00
- 対象: 実践的スキル取得、訪問診療連携、現場対応学習希望の施設
- 内容: PD外来見学、訪問診療同行、申し送り参加
- 費用: 医師 10,000円/名、看護師・その他職種 5,000円/名、企業 10,000円/名
一日コース|総合的研修
- 時間: 9:00-17:00
- 内容:
- 午前:システム概要・PDプログラム紹介
- 午後:外来見学・訪問診療同行
- 費用: 医師 15,000円/名、看護師・その他職種 7,000円/名、企業 15,000円/名
- ※昼食は実費
一泊二日コース|intensive研修
- 時間: 1日目 9:00-21:00、2日目 9:00-12:00
- 特別プログラム:
- 院内講演会「多職種連携による緩和的腹膜透析の実践」
- 夜間懇親会での情報交換
- 看護実践編での実務研修
- 費用: 医師 20,000円/名、看護師・その他職種 10,000円/名、企業 20,000円/名
- ※宿泊費・食事代は実費(近隣ホテルをご紹介)
共通の特徴
- 少人数制による質の高い学習環境
- 実践的な知識とスキルの習得
- 多職種連携の実際
- 継続的なサポート体制
- 研修資料・飲み物付き
お申し込み・お問い合わせ
お問い合わせフォーム もしくは当院院在宅支援部(093-863-1211)までご連絡ください。
- 定員:各コース4名まで
- ※具体的な研修日程、希望については『お問い合わせフォーム』よりお問い合わせください。
- ※施設の状況に応じて研修内容のカスタマイズも承ります
腹膜透析での連携病院・クリニック・施設・訪問看護ステーション(ST)
産業医科大学病院 小倉記念病院 済生会八幡病院 JCHO九州病院 田川市立病院 新中間病院 製鉄記念八幡病院
今村クリニック 有料老人ホームコピーヌ中間 生協ホーム赤とんぼ
すずらん訪問看護ST 訪問看護STよりそい 在宅看護センター北九州 訪問看護STきのこハウス
「腹膜在宅透析医療を支える会」について
日本における腹膜透析の普及を図り、透析患者さんに自分らしいそして尊厳の保たれた人生を送って頂くことを目的とした活動をしている会です。
院長は本会の幹事であり、さまざまな発信、助言を行っております。MCSに登録後、コミュニティより参加申請が可能です。以下グループのご紹介です。
本グループ「腹膜在宅透析医療を支える会」は日本における腹膜透析の普及を図り、透析患者さんに自分らしいそして尊厳の保たれた人生を送って頂くことを目的とした活動をしている会です。
これまで当会はMCS上で会員招待制のグループとして活動をしてきました。今後更なる腹膜透析の普及を目指し、この度、MCS会員の皆様であればどなたでもアクセスして頂けるように一般公開とさせて頂きました。
以下に活動の背景や概略を説明致します。
日本の慢性腎臓病患者は約1300万人と8人に1人を占める国民病です。
慢性腎臓病が進行して腎機能が廃絶状態になると以下の腎代替療法の選択が必要となります。
①腎移植、②血液透析(HD)、③腹膜透析(PD)、④保存的腎臓療法(CKM)
日本では腎移植はまだまだ普及しておらず約35万人の方が透析治療を受けておられます。透析治療の内、血液透析が約97%を占め、腹膜透析は僅か約3%と少なく、これは世界的にみても極めて少ない割合です。
PDはHDと比較して、生命予後や透析に関わる合併症発生率において劣ることはなく同等の治療効果を有する治療方法です。
むしろ、以下の点でHDより優れた面を有します。
①HDと違い血液体外循環を要しないため、治療中の血圧低下や気分不良を起こすことがない。従って低心機能患者や全身状態の悪い患者でも安全かつ苦痛なく治療が可能です。
②平均週3回の通院を必要とするHDに比べて、PDは平均月1~2回の通院で済むため通院にかかる負担が少ない。透析患者の高齢化が進む日本では、通院の負担が少ないことは大きなメリットです。また、通院頻度が少ないため透析開始前と同様の生活様式(仕事、育児、趣味、デイサービス利用の時間等)を維持出来ます。
③高齢によるADL低下や基礎疾患の進行などの理由で通院が困難になると、HDでは長期(死ぬまで)入院での透析を余儀なくされます。 一方、PDでは通院が出来なくなっても自宅や老人施設で治療を継続し、そこで最期を迎える選択が可能となります。
ではなぜこれだけのメリットがあるPDが日本で普及していないのかが問題です。
その理由には様々なものが複雑に絡み合って存在します。
①日本ではHDの歴史が長く、極めて多くのHD施設が存在し、HD施設へのアクセスが容易である。
②PDを実施している医療機関や老人介護施設が少ない。
③腎代替療法の選択の際に医療機関から患者にHDの説明しかされず、
PDの選択肢を提供しない施設が多く存在してきた。
④PDは自宅や施設で原則的に自分ないし家族で実施する治療法であるとされてきたため、高齢者、ADLの低い方や独居の方ではPDが実施不可能と判断されてきた。
そこで当会ではこれらの問題や課題を解決してPDを普及することを目的として活動を続けています。
具体的には、以下の患者さんに腹膜透析を届ける活動をしています・
①腎代替療法選択でPDを希望する患者さん
②医学的にPDが向いているにもかかわらず自己でのPDの実施が難しいであるとか、PDを実施してくれる同居者がいない等の理由でPDを提供されてこなかった患者さん
③HD患者さんで、透析途中に頻回に血圧低下を来しHD実施が困難方、人生の終末を迎え自宅で最期を過ごすことを希望する患者さん等
これらの患者さんにPDを提供する努力をしています。
この目標を達成するには、患者居住地域にある複数の医療介護機関の医師、病院・診療所看護師、訪問看護師、ケアマネージャー、介護士、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカー等が相互に医療連携(地域医療介護福祉連携)をする必要があります。そこで当会ではこの地域医療介護福祉連携を普及・推進をするためにMCSを利用して情報・知識の共有や問題解決を図っています。加えて年2回オンラインセミナーも開催しています。
MCSの会員の皆様には是非、腹膜透析(PD)に関心をお持ち頂きこのサイトを通じてPDの普及推進にご協力頂ければ幸いです。
(文責)正木浩哉
合言葉「在宅腹膜透析を支える知恵の泉となるようなグループにしてゆきましょう」
「腹膜在宅透析医療を支える会」
幹事(五十音順)
市川 匠(柴垣医院:東京)
大脇 浩香(岡山済生会外来センター病院:岡山)
片岡 今日子(日本財団在宅看護センターひまわり:東京)
楠本 拓生(楠本内科医院:福岡)
柴垣 圭吾(柴垣医院:東京)
樋口千恵子(柴垣医院:東京)
正木浩哉(正木医院:京都)
松本秀一朗(川原腎:泌尿器科クリニック:鹿児島)
宮崎正信(宮崎内科医院:長崎)
MCS(メディカルケアステーション) https://about.medical-care.net/html/
メディカルケアステーション(MCS)は、全国の医療介護の現場でご利用いただいている地域包括ケア・多職種連携のためのコミュニケーションツールです。
当院ではMCSを通じて在宅医療における情報共有、多職種連携を行っており、在宅医療における課題解決にも積極的に取り組みでおります。
在宅腹膜透析の情報共有サイトができました http://home-pd-care.com
在宅医療である腹膜透析治療は、透析療法が必要なほど腎機能が悪化した方が、透析療法をしながらも、ご自身の望む日々の暮らしを続けるために、有用な透析療法の選択肢です。 しかし、「腹膜透析治療は『自分で行わなければならない』ものであるから、できる人は限られている、特に高齢者には難しい」というように考えられがちです。
このサイトは、これまでの腹膜透析診療の経験から得られた知見や工夫、国内外の研究結果、社会福祉サービスの活用等、腹膜透析治療を在宅で安全に、多くの方に安心して継続していただくための様々な情報を、医療に関わる全ての職種、市民の方々と共有することで、腹膜透析治療をしながらご自身の望む暮らしを続けていくことのできる方が全国でもっともっと増えてほしいとの願いから、設置されました。